久しぶりの口づけは、リクオを内からじんわりと満たしていくようだった。
このところテストや学校行事で時間が取れず、鴆とはゆっくり会うこともできない日々が続いていた。仕方のないこととはいえ物足りなかったのもまた事実で、リクオはこの日、とうとう授業を抜け出し保健室へと来てしまった。普段は授業をサボったりなどしないが、会えない日が続く中でどうしても顔が見たいと思ってしまえば、もう抑えが利かなかったのだ。
ただ、他に生徒がいれば諦めるしかなかったし、鴆が忙しそうならば邪魔だけはしたくなかったので、その時は適当な理由をつけて大人しく寝ているつもりだった。
しかし幸いにも保健室の利用者はいなかった。授業中に現れたリクオを見て最初こそ気分でも悪くなったのかと心配した鴆だったが、躊躇いながら「今、いいか…?」と訊ねるリクオの様子に何かを察したらしい。叱りもせず、ただ嬉しそうに笑って中へと招き入れてくれた。
少しでもゆっくり話ができれば、それで良い。
そう思っていたリクオだったが、扉の鍵をかけた鴆に疑問を抱く間もなく、気がつけばその場で抱きすくめられ唇を塞がれていた。驚いたものの、ひと度馴染んだ温もりに触れてしまえば切ない疼きは誤魔化しようのないほどに膨らんでいく。
強ばった身体の力を抜いて、リクオは満たされた心地で鴆の口づけを受け入れたのだった。
会えなかった時間を取り戻すかのように唇を重ね呼吸を奪い合い、リクオの息が続かなくなってきた頃にようやく口づけが解かれた。離れてしまった唇が名残惜しく、閉じていた目をぼんやりと開く。
「んな顔すんなよ…久々だし、我慢できなくなっちまうぜ?」
苦笑を滲ませながらそう言われてしまえば、自分がどんな表情をしていたのかなど容易に想像がついて思わず頬が熱くなる。
こんな言い方をする時の鴆は、少し意地悪だ。ここでリクオがそれは困ると言ったところで聞き入れてはくれないだろうに、わざわざリクオの口からたった一つしかない答えを聞きたがる。
「別に、いい……」
最初から「そういうこと」がしたくてここに来たわけでは、もちろんなかった。それでも一度自覚してしまった疼きと熱は治まりそうもない。恥ずかしさに目の前の肩に顔を埋めながらも、リクオは鴆が望む言葉を口にした。
「……リクオ」
一瞬の間の後、白衣をぎゅっと握り締めた指を優しく包まれてゆっくりと手を引かれた。導かれた場所は、ソファでもベッドでもなく、鴆が書類仕事に使っている窓際の机だった。
椅子に腰掛けた鴆に誘われるまま膝に乗り上げ、再び唇を重ねる。角度を変えて舌を絡め合ううちに、鴆の手は器用にリクオの制服を乱していった。はだけたシャツの間から入り込んだ手に肌を撫でられて震えながらも、攻め立てるような舌の動きに懸命に応える。時折漏れる自らの頼りない声はどこか遠くに聞こえて、頭がくらくらした。それに気がついたのか、ゆっくりと唇が離れ優しく抱きしめられる。されるままに身体を預けたリクオだったが、ふと下肢に当たる硬い感触にどきりとして鴆を見た。視線を受けて、鴆が困ったように笑う。
こうして触れ合うのも、久々なのだ。口づけだけで、互いの中心はすでに確たる熱を持っていた。
「なぁ、リクオ……」
そっと手を取られ、鴆の脚の間へと導かれる。触れたそこは、やはりズボンの上からでも分かる程に硬く張り詰めていた。そっと撫でると、耳元で熱い吐息が漏れる。もう一度名前を呼ばれ、何を請われているのか正しく理解したリクオが小さく頷くと、嬉しそうに鴆は笑った。
鴆の足の間に膝をつき、前を寛げる。促すように髪を撫でられて、リクオは取り出した鴆のものにゆっくりと舌を這わせた。未だに慣れたとは言い難いが、それでもちらりと見上げた鴆は気持ちよさそうに目を細めている。
指に、舌に感じる熱さに眩暈を覚えながらも、リクオは先の部分をそっと口に含んだ。頭を上下させながら、少しずつ奥まで咥えていく。そうするうちに独特の苦味が口内に広がり始めて、あぁ感じてくれているのだと嬉しくなる。じわりと滲む先走りを唾液と絡めるように先端を舐め上げると、小さく腰が跳ね呻く声が上から聞こえた。
「っはぁ…上手く、なったじゃねぇか……」
「ん……っ、」
少し上擦った声にそう言われて、リクオは夢中で行為に没頭した。
喉奥まで咥え込むと気持ち良いのだということは知っている。苦しさに眉を寄せ涙を滲ませながらも、リクオは限界まで口を開き喉の奥へと張り詰めたものを受け入れた。噎せそうになるのを堪え、唇で扱くように愛撫を加える。入りきらない根元の部分には指を絡めて、舌も使って追い上げると、もともと余裕がなかったせいもあり鴆の息遣いはすぐに荒くなっていった。
気遣うように髪を撫でていた指に力が込められ、押し付けるような動きへと変わっていく。上顎を突くように腰を動かされ、這わせた舌を擦られて、リクオもまた確かな快感を感じていた。
「んぅ、ぁ…っ、んん……っ」
喘ぎにも似た吐息が漏れて、息苦しさと快楽に頭がぼんやりとする。鴆も限界が近いらしく、咥えたものは大きく脈打っていた。このまま達してほしくて、リクオは愛撫の動きを早めた。
「っく、ぅ……リクオ…っ」
呻くように名前を呼ばれてぐいと頭を押さえ込まれ、次の瞬間には口の中に熱い飛沫が叩きつけられていた。ちゃんと鴆を気持ち良くできたことが嬉しくて、少し苦労しながらも口内に放たれた残滓を飲み下す。
「すげぇ良かったぜ、リクオ……」
「先、生……」
ありがとうな、と頬を撫でられて、そのくすぐったさに身を竦めながら、リクオは再び鴆のものに唇を寄せた。
清めるように舌を這わせながら恍惚とした表情を浮かべ、しかしリクオは自らの熱を持て余していた。触って欲しいとも言えないままズボンの中に押し込めた自身が苦しくて、無意識に腰が揺れてしまう。それに気がついたのだろう。靴を履いた鴆の爪先が、ゆっくりとリクオの中心をなぞり上げた。
「ぁあっ…!」
思いがけない刺激に悲鳴を上げ、リクオは堪らず鴆の足に縋った。
「そんなになるまで我慢してたのか?ほら、今度は俺が気持ち良くしてやるから」
いきなりの仕打ちに文句を言う余裕もなく腕を引かれて立ち上がり、目の前の机に寄りかかる。触れるだけの口づけから、鴆の唇は首筋を辿り胸の小さな粒へと行き着いた。柔く食まれ、舌先で転がすように愛撫されて抑えきれない声が上がる。揺れる腰を押し付けるようにして鴆に縋り付くリクオの様子に、あまり焦らすこともできないと思ったのだろう。鴆はリクオのベルトを緩めると、手早く前を寛げ中心へと手を伸ばした。
「あぁっ、ん…っ」
直接触れられてびくりと腰が跳ね、縋る指に力が籠る。すぐにでも達してしまいそうな程に、リクオのそこは張り詰めていた。
「リクオ、後ろ向けるか…?」
愛撫の手を止めて、鴆が言う。甘い疼きに震えながらも頷いたリクオは促されるまま鴆に背を向け、パソコンや書類に触れないよう気をつけながら机へと手をついた。すぐに背後で鴆が屈む気配がして、あ、と思う間もなく下着ごとズボンが下ろされてしまう。あまり慣れない体勢に少し不安を覚えて振り向こうとしたが、その前に双丘に手をかけられぐっと割り開かれた。
「ぁ、や…っ」
屈んだ鴆の眼前に秘所を晒されているのが分かり、羞恥に身体が熱くなる。逃れようと身を捩ったが腰を掴まれてろくに動けず、じっと見つめる視線を嫌でも感じてしまう。
「ここも、慣らさねぇとな?」
「や、こんな……ぁっ」
やめてくれと言いたかったのに、あろうことかそのままその場所に舌を這わされて、リクオは背筋を震わせた。そこを舐められるのは初めてではなかったが、今更ながらに昼日中の明るさを意識してしまい、あまりの恥ずかしさに涙が滲む。
「はっ…ぁん……」
尖らせた舌が、固く閉じた蕾を開こうと押し入ってくる。卑猥な水音を立てながら、浅く出し入れされたかと思えば周囲を解すように丹念に舐められて、リクオは揺れる腰を止めることもできずただ喘いだ。限界が近い自身からはぽたぽたと蜜が零れ、足元に小さな水溜りを作っている。張り詰めた中心は痛いほどに疼いているのに触れてはもらえず、もどかしさに気が狂いそうだった。
「あっ、先生…も、無理……っ」
「ん、一回出しとくか」
堪らず懇願すると、鴆は前に手を伸ばして脈打つそこへと指を絡めた。息を呑んだリクオの腰に唇や舌を這わせながら、十分濡らした後ろへと指を差し入れる。
「ぁ…っ、あっ」
ゆっくりと内部を探るような指の動きに気を取られて腰を揺らめかせれば、今度は自身を扱く手に力が込められる。前と後ろを同時に攻められて、足がガクガクと震えた。立っているのも辛くて、机についた腕で必死に体重を支える。
「ん…っ、も、イく……!」
「いいぜ、イけよ、リクオ……」
「く、ぅ…あぁ……っ」
ぐり、と先端を抉られ、同時に中の弱いところを擦られて、リクオは鴆の手のひらに熱を放った。
「リクオ、」
崩れ落ちそうな身体を立ち上がった鴆の腕に支えられ、息も整わないまま顔だけ振り向くと、じゃれつくように頬を擦り合わせてくる。くすぐったさに笑いながらも、押し付けられる鴆の下肢は再び硬度を取り戻していて、リクオは誘うように腰を揺らした。
「ぁ、ん…っ、焦らす、なよ……」
指を引き抜かれてもの欲しげにひくつくそこに鴆のものが擦り付けられるが、決してその先に進もうとはしない。困惑しながら振り向くと、笑んだ気配と共にそっと耳朶を噛まれた。
「なぁ、欲しいか……?」
「分かってる、くせに……」
憮然としてそう呟いても、鴆はおめぇの口から聞きてぇんだよと笑うだけだ。少し躊躇った後、恥ずかしさに頬を染めたリクオは、熱い吐息に乗せてようやく願いを口にした。
「……くれよ、先生が、欲しい」
「あぁ、いい子だリクオ…全部、やるよ」
会えなかった分まで愛してやる。耳元でそんな風に囁かれて、思考が甘く蕩けていく。抱きしめられた腕の中で小さく頷いたリクオは、委ねるようにそっと目を閉じたのだった。
終