「……鴆、」
背後からの足音とともに、躊躇うような声に呼ばれた。
見るまでもなく年下の恋人の表情は想像できて、鴆は口元を緩める。ソファの隣に腰掛けたリクオを振り向かせれば、案の定、少し怒ったように唇を引き結んでいた。それが羞じらいの裏返しだと知る鴆は、構わず肩を抱き寄せる。
「来いよ、リクオ」
名を呼べば、湯上がりで上気した頬がさらに紅くなった。もともと白い膚は、血が上ると桜色に染まって見る者を誘う。促されるまま鴆の膝に跨がって、やっとリクオは視線を上げた。
「似合うじゃねえか」
からかう口調で笑みを向ければ、調った顔がしかめられる。
「……どういう趣味だよ」
向かい合わせで鴆を睨む相手は、素肌にシャツ一枚の姿だ。その裾から掌を差し入れ、滑らかな膚へ指を這わせる。
「どうせすぐ脱ぐんだ。いいじゃねえか」
「けど、」
なおも言い募ろうとする恋人の背をまさぐり、撫で下ろす。背骨を辿り、鴆の手はそのまま何も着けていないリクオの双丘へと触れた。
「……んっ……」
思わせぶりに撫でてやれば、その先を知る身体はすぐに反応する。思わず吐息を漏らして、目を伏せたリクオは悔しそうに唇を噛んだ。
「お前が欲しくて、仕方ねえんだ、リクオ」
乞うように囁いて、鴆はゆっくりと掌を滑らせた。腰から脇腹、そして胸。手探りで胸の粒をきつく摘まみ、固く尖り始めるまで捏ねてやる。
「……鴆、」
煽られて掠れた声をあげた恋人にみとれながらも、鴆は意地悪く指先に力を込める。
「……ぁん……っ……」
施された痛みにリクオは顔を上げ、物問いたげに鴆を睨んだ。人の悪い笑みで応じて、鴆は子どもに言い聞かせるよう、相手の目を覗き込む。
「先生、だろうが?」
「っ……」
仕置きのわけに思い至って、リクオが戸惑うように視線を逸らす。困った恋人が可愛らしく、鴆はなおも追い打ちをかけた。
「ほら、言えるだろ?」
シャツの下の指は、休むことなくリクオの胸の果実を苛んでいる。鴆の授業に馴らされた若い肢体は、掻き立てられた熱を持て余し始めているはずだった。
「……先生、」
やっと恥ずかしそうに呼んだリクオは、鴆の膝の上で小さく身体を戦慄かせる。
「そう。……忘れンなよ?」
目を細め、もう片方の手で頬を撫でてやれば、リクオはますます紅くなった。あらぬ方を向こうとする顔を捉え、触れるだけの口付けを落とす。髪をすきながら幾度もついばむうち、焦らされたリクオから、鴆へと舌を差し入れてきた。
濡れた舌が最初はおずおずと、やがて大胆に、鴆を欲しがって絡み付く。教え子の拙いながらも懸命な所作に、身体中が瞬時にたぎった。
リクオのうなじに手を回し、容赦なくその熱を奪う。唇を犯し、息を継ぐ間も許さず、恋人の吐息をただ貪る。舌を絡め、きつく吸ってやれば、腕の中の身体からはくったりと力が抜けた。
「リクオ、」
ようやく解放されたリクオは、鴆の肩にすがって荒い息を繰り返している。甘く呼んで上を向かせ、潤んだ瞳に隠しきれない情欲を認めて、鴆は満足気な笑みを浮かべた。
「どうして欲しい?」
聞かれたリクオは、羞じらう様子で俯く。
口付けで火照った身体は疼いて仕方ないだろうに、まだ初心な恋人はそれを口に出せはしない。知りながら聞いた鴆は笑みを深くして、相手の耳元へと顔を寄せた。
「そんなら、リクオ、」
膚をくすぐった吐息に、リクオはふるりと身を震わせる。すぐにでも抱き締めたいのを堪えて、鴆は優しい声で耳打ちした。
「お前が言わねえっていうなら、なあ、」
耳朶を含んで、甘噛みする。緊張した肩が微笑ましかったが、譲るつもりはなかった。
「……お前の口で、してくれよ?」
一瞬、リクオが息を呑む。けれど黙って髪を撫でれば、恋人はこくりと頷いて、鴆の膝から下りた。
浅く座り直した鴆の足元に跪いて、リクオが前立てへと手を掛ける。見守る眼下で、既に兆した鴆のものへリクオの白い指が添えられた。
瞼を落としたリクオが、少し緊張した様子で鴆の先端へと口付ける。紅く濡れた唇に含まれて、その熱さに目眩がした。
物慣れない愛撫は、かえって恋人の懸命さを際立たせる。眉を寄せ、鴆自身をもっと奥まで咥えようと努めるリクオは、それだけでひどく煽情的だった。鴆の口淫を真似ているのだろう、舌を這わせ、唇で食むように刺激されれば、鴆の中心は露わに力を得る。
「上手くなったじゃねえか」
髪を撫でてやれば、リクオは視線だけで鴆を見上げた。無意識だろうが、口の周りを汚し、男のものを頬張った顔は最高に淫らで、鴆は思わず喉を上下させる。
「……いいぜ。続けろよ?」
「……ぁんっ……」
口腔で存在を増したものに、リクオが上擦った声を漏らす。目尻に滲むのは生理的な涙だとわかっていても、切なげに奉仕を続けようとする恋人は背徳的に過ぎた。
「……っ、堪んねえ……っ、リクオ、」
我慢できず、鴆はリクオの後頭部へと手を伸ばす。
「もっと、……なあ?」
そのまま引き寄せ、乱暴に自身を押し当てる。
深く咥えさせられ、きつく目をつぶったのは一瞬、頬を伝った涙には構わず、リクオは目を伏せて懸命に舌を使った。
長い睫毛が頬に影を落とし、紅くなった唇ばかりが艶めかしい。下腹から突き上げる疼きに灼かれながら、鴆はもっとその顔を見ていたくて快感をやり過ごす。
「そう、もっと奥だ……もっとおめえを感じてえ」
うなじをなぞって促せば、咥えたままリクオは大きく喘いだ。さらに一筋、綺麗な涙が零れ落ちる。
鴆を悦ばせようと懸命な恋人が愛しくて堪らない。
「イイ子だ、」
あやすように、指先を首筋に遊ばせる。従順な身体は、それだけの刺激にも反応して肩を震わせた。
言われるままにしゃぶりながら、リクオもまた発情していることは、染まった目元や忙しない息遣いが教えてくれる。
一途に鴆のものを啜るリクオが、片手を下ろすのを鴆は見逃さなかった。
「……どうした、リクオ?」
うなじから首筋を撫で上げ、髪をかき上げるようにして上を向かせた。自身を引き出し、卑猥に濡れた口元を拭ってやる。興奮に蕩けた表情は、鴆に唇を擦られ、瞬いてやっと焦点を結んだ。
「もう、我慢できなくなったのか?」
「ちが……」
首を振った相手の顎を、長い指で捉える。
物騒な笑みを浮かべて、鴆はリクオへと身を傾けた。
「嘘は吐くな、って教えたよな?」
「や、……っ、そんなんじゃ……っ……」
「約束、だろ?」
言い返そうとするリクオに追い打ちをかけ、鴆は笑う。
「ほら、言ってみなリクオ?」
「あ……」
途方に暮れたように、リクオが唇を噛む。
顎を摘んだまま、鴆は視線を逸らさない。
「もう、我慢できなくなっちまったか?」
繰り返された問いに、目を伏せ、リクオは喉を上下させた。薄く開いたままの唇が、小さく喘ぐ。
「……我慢……できねぇ」
やっと口にされた言葉は、羞恥に揺れた。
「どうして欲しいんだ?」
言い聞かせるよう、鴆は問う。
「……どうって……」
見つめる先で、リクオの唇が何かを言いかけ、また閉じられる。
「わかってるだろう、リクオ?」
呑み込みの悪い生徒に教えるよう、鴆は優しい声で促した。
「……ぜ、……先生が、……欲しい」
不安と羞恥の狭間で答えは返って、鴆の笑みは深くなる。
「いいぜ。……どうしてやればいい?」
「……っ……」
顎を捉える指から顔を背けると、リクオは立ち上がり、鴆の膝へと跨った。先刻まで咥えていたものへと手を伸ばし、自ら狭間へ導こうとする。
「おいっ」
押し止めて、鴆はやんわりと咎めた。
「だめじゃねえか勝手しちゃあ。教えなかったか?」
「……けどっ、」
いつもは強気なリクオの顔が、泣きそうに歪んだ。からかい過ぎたかと、鴆は表情を和らげる。
「莫っ迦、リクオ、」
傍らの容器から、潤滑剤を掬い取る。膝立ちのリクオへと手を伸ばし、双丘の奥をまさぐった。
「ンな真似しちゃあ、お前のこと傷付けちまうだろうが」
宥めるように入口をなぞれば、リクオの身体は竦みながらもひくりと跳ねる。そのまま花蕾を穿って、鴆は長い指で秘奥を撫で上げた。
「ほら、……ちゃんとほぐしてやらねぇと、」
「……っ……やぁ……っん……」
仰け反って、リクオは鴆の肩へと腕で縋った。
煽られて、やや性急に侵入した指を、花筒は待っていたかのように押し包む。 膝の上で身悶えるリクオに目を細め、鴆は不埒な指を蠢かせた。
とうに熱を溜めた身体は、物慣れた指遣いに容易く翻弄される。弱い箇所を容赦なく責め立てられ、リクオの腰が大きく戦慄いた。
「……っ……ぁあっ……はぁっ……ん、……」
呑み込みきれない嬌声が、途切れることなくリクオの喉を震わせる。
鴆の指を締め付けながら、花筒の内は熱く蕩けるようだった。シャツの下では、頭を擡げた欲情の徴がはしたなく蜜を零している。
「リクオ、こんなにひくついてんぜ……どうしてやればいいのか、言ってくれねぇか?」
「……っん、……早く……っ、先生っ……」
「急かすなよ。……今度はちゃんと言えるな?」
「ぁん……っ……、欲し……っ……、」
無意識に腰を揺らして、リクオが切なげな声をあげた。
「教えただろう、リクオ?」
蹂躙していた指を引き抜き、鴆は両手でリクオの腰骨をつかむ。
「言わなきゃ欲しいものはやれねぇぞ?」
「……っ、……先生、の……入れて、くれよ……っ、」
羞恥に躊躇い、けれどとうとう我慢できず、リクオが鴆をねだる。
鴆の口元が、満足げな笑みを浮かべる。
「イイ子だ。……ちゃんとよくしてやるから、これ咥えてな」
リクオのシャツを捲ると、鴆は口元まで持ち上げた。リクオは言われるままに裾を噛み、蜜を零しっぱなしの自身をさらす。普段なら堪えられないだろう恥ずかしい格好も、昂ぶらされ、快感に苛まれる今のリクオは拒めない。
鴆は己をリクオへと宛がった。
「ゆっくり、……そうだリクオ、」
「……ぁんっ……、せんせ……っ、」
リクオの腰を引き下ろし、鋒を呑み込ませる。
慣れない苦しさに顔をしかめながらも、自身を貫く確かな熱にリクオは大きく喘いだ。
「いい眺めだぜ。……動けるだろう、自分で?」
「……んっ……」
控えめに腰を揺らして、リクオはゆるゆると首を振る。もどかしげな吐息は、シャツを噛み締めているせいか、常より鼻にかかって甘く響いた。
「ん? こんなんじゃ足んねえよなあ、リクオ?」
揺すり上げて、鴆は相手の表情を楽しげに見つめる。恥ずかしさから逃れるよう目をつぶったリクオは、からかう言葉に身体を震わせた。鴆へとすがる手に力を込め、さっきより大胆に腰をまわす。
「そう……できるじゃねえか」
腰に添えた手で引き寄せれば、リクオの身体は従順に応じる。さらに深く鴆を呑み込み、眼前で自ら快感を追う恋人の痴態に、鴆は思わず唇を舐める。
「んっ……リクオ、こっち見ろよ」
色めいた呻きを漏らしながら、甘える口ぶりでせがむ。相手が抗えないのを知っている、余裕の口調だ。
リクオは俯いていた顔を上げ、呼ばれるままに鴆を見つめた。陶然と悦に酔い、瞳を潤ませたままシャツを噛み締める姿は、否応なく鴆を荒ぶらせる。
「っのやろ……っ」
我慢できず、激しく腰を突き上げた。揺さぶられて堪え切れず、リクオの口から銀糸をひいてシャツの裾が落ちる。
「……ぁんっ……ぁあ……っ……」
立て続けに深く貫かれ、リクオの艶めかしい嬌声があたりを埋めた。
「……や、ぁあっ……っん…………」
「……はっ……もっと色っぽく……、啼けるだろう、リクオ?」
一度溢れてしまった声はとめどない。上擦ったリクオの喘ぎは、二人を貪欲にけしかける。
「……はぁ……っん……せんせっ……ぁっ……」
鴆を欲しがって、リクオが思い切り腰を振る。咥えこんだ切っ先を秘奥へ擦り付け、けれどそれでは足りないのか、戸惑いに表情が歪む。
「……な、あっ……」
気まぐれに突かれ、啜り泣くようにリクオは鴆を呼んだ。
「どうした?」
「……ぁっ……もっ……苦し……っ……」
切れ切れに訴えた恋人に、鴆は心得て笑みを返す。
「……何だ、……まだ足りねぇ、か?」
「……んっ……」
こくりと頷いたリクオは、蕩けきった瞳を鴆に向ける。快感ともどかしさとに翻弄されて、鴆の思惑通り、若い肢体は羞恥の箍を外していく。
「いいぜ。……教えた通り、おねだりしてみな?」
「……あっ……、」
最後の強情で言葉を切ったリクオを、鴆は焦らずに待った。その間にも恋人の身体は戦慄いて、身の内に御せない熱があると教える。
「……リクオ?」
「……あ……っ、……さわって……ほし……」
鴆は笑みを噛み殺し、繋がりを穿つ。危うげに揺れた腰を支えて、低い声で囁いた。
「何処にだ? ……ちゃんと教えてくれねぇと、」
「……っ……」
「隠してちゃあ、わからねぇだろう?」
鴆を離れたリクオの片手が、シャツの裾へと伸ばされる。きつく布地を握り締め、そのままゆっくりと捲って、リクオは喘ぐように顔を背けた。
「ここか?」
晒された欲情の徴に、鴆は目を細めた。蜜を伝わせたリクオ自身へ、骨張った指が絡みつく。
「……んっ……そこ、……っ……」
白い喉を仰け反らせて、リクオが溜め息を零す。ねだるように腰を振り、自らを穿たせては中の鴆を締め上げる。
「気持ち、いいか?」
「……ぁんっ……もっと……、……きつ、く……」
譫言めいた答えに昂奮し、鴆の腰も勝手に振れた。乞われる通り嬲る指を強くして、前後からリクオを責め立てる。
「……こう、……か、よっ……」
「……ん……っ……、やっ……、せん、せっ……」
肩に置かれたリクオの片手が、鴆の膚へと爪を立てる。忙しない呼吸は、既に喘ぎと区別がつかない。
鴆の膝の上、夢中で悦を追うリクオは、汗で濡れた白い肢体を踊らせて淫蕩この上なかった。
「……ぁあ……っ……も、っ……はぁ……ぁんっ……」
「ぁ……っ、リクオ……っ」
擦れ合う膚が、卑猥な水音をたてる。二人の喘ぎは混ざり合い、絡み合って、他には何も聞こえなくなった。
「ぁあん……っ……」
甘く蕩けた声とともに、リクオが欲情を吐き出す。鴆も、貫いた秘奥へと自らの飛沫きを叩き付ける。
膝の上から、倒れ込むようにすがってきたリクオを、鴆はきつく抱き締めた。荒い息に弾む身体を受け止め、乱れた髪へと頬擦りする。
「リクオ、」
小さく呼ぶと、鴆の肩へと顔を伏せたリクオは、むずかるように額を擦り付けた。
「……最高だったぜ?」
笑みを含んだ声で囁けば、伏せられていてすら頬を熱くしたのがわかる。
「……莫っ迦……」
返された呟きに苦笑して、鴆は年下の恋人の髪を撫でた。
(了)